譜久山仁 の 第3診察室

shinsatsu.exblog.jp
ブログトップ

医療は誰の為のもの

 退院を強く希望されている患者さんがおられます。

ご家族から、「自分で動くことのできない状態で、家に帰るなんて無理です。先生から入院を続けるように説得してください。」との、お願いを受け、病室に向かいました。

「Aさん、おうちで過ごせそうですか?」 と、のっけから聞いてみました。

「いや、まだしんどいんやけど、ずっと入院しとると動けんようになるからな。
とりあえず、家に帰りたいんや。」

―Aさんは、入院中リハビリテーションをしているのですが…。

「じゃあ、どのくらい歩けるか、ちょっと見せてもらえますか。
ご家族の方も、Aさんが歩けなかったら、心配でしょうから。」

Aさんは、何とかベッドから自分だけの力で起き上がり、
ベッド柵を頼りに立ち上がり、杖を頼りに歩き始めました。

病室の入り口まで約5mの往復。
その間、よろけながら、何とかベッドまで戻ったAさん。

息が上がってしまっています。

「Aさん、今の状態じゃあ、ちょっと、おうちで過ごすのはしんどいんじゃないですか?」

「いや、少しずつ家で練習するから、何とか動けるようになる。」
と、どうしても退院したいAさん。

ご家族は、後ろで、しきりと入院した方がいい、とAさんに言い続けています。

「Aさん、退院されたいのでしたら、勿論、帰っていただいても結構です。
ただ、お一人で動ける状態ではないので、ご家族の方のご協力が必要だと思います。
ご家族の方が納得いく状態で、帰ったほうがいいと思いますよ。」

結局、Aさんの退院希望とご家族の心配の両方を解決する為に、外泊をしていただくことになりました。

医療の場で、患者さんをめぐっていろんな人の思惑が交錯します。
残念ながら、全員の思惑、利害は必ずしも一致しません。

そのときに、どうすればよいのか。

医者は、自分の良いと思う医療を進めていけばよいのか?
患者さんの希望だけをかなえればよいのか?
家族の希望を優先すればよいのか?

シンプルに、もっと、シンプルに。
医療は、患者さんのためのもの、なんです。
そして、患者さんはご家族など周りの人に囲まれて、生活しているのです。

患者さんに対して、提供できるだけの情報を提供して、
あとは、患者さん自身に、周りの人と相談して判断してもらえればよい。

必要ならば、調整役を務めないといけないけれども、
基本的には患者さん自身の想いを最優先したいと思っています。
[PR]
by fkymhts | 2005-03-30 00:25 | 診察室のひとりごと