「また、仕事に復帰したいんです。」
Tさんは、大きなおなかを押さえて、それでも、きらきらとした目で僕の顔を見ました。
胃癌手術後、肝臓やリンパ節に転移があり、腹水が貯まっている状態。
腸の流れが悪くなる腸閉塞も起こしていて、食べ物も流動物しか食べることのできない状態です。
どうしてもご自宅に帰りたい、とのご希望で、緩和医療を求めて県立病院からの紹介を受けて、第3診察室にこられました。
残り数ヶ月しか余命がないことはご存知で、それでもなお、ご自宅の生活、そして、職場への復帰を強く希望されています。
ご自宅で過ごしていただけるように、在宅中心静脈栄養の為のリザーバー留置(点滴の針をさすことができる円盤のようなものを皮膚の下に埋め込む治療)についてご説明をしながら、
「どうしてこんなに輝いているんだろう。」
と、驚嘆の思いを感じずにはいられませんでした。
数ヶ月、という時間。
決して長くはない、ふと気がつくといつの間にか過ぎてしまっているかもしれない時間。
Tさんにとっては、一度しかない、数ヶ月、なんです。
その数ヶ月を、精一杯、できる限りのことをしようという意欲にあふれているから、こんなに輝いているのでしょう。
そうして、Tさんの数ヶ月は、だれよりも、きらきらと輝いているのでしょう。
自分も、きっといつかは迎える、一度しかない最後の数ヶ月。
どれだけ輝いた時間を過ごせるか。
それは、普段の時間を、 今を、 どれだけ大切に、輝いて過ごせるか。
そうして、輝いた時間をどれだけ積み重ねることができるか、で、決まるのでしょう。