譜久山仁 の 第3診察室

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この人は、人が良くてね

 往診に伺った時に、患者さんのご家族がポツリと言われた言葉です。

 Oさんは、末期癌の状態で、緩和ケア目的で譜久山病院に紹介入院されてこられました。

「家に帰りたい」
このことだけが、Oさんの望みでした。

食事を食べることが出来ず、点滴が必要な状態。
また、癌による、痛み、全身倦怠感(体のだるさ)がだんだんと強くなってきている状態でした。



ご家族は、退院することに不安を感じておられました。

病院だったら、点滴を看護師さんがしてくれる。
痛みや、だるさに対しても、薬を使ってくれる。

でも、家ではどうしたらいいんだろう?

できることなら、できるだけ長いあいだ、病院においてほしい。



ご家族の不安は、もっともなことです。


でも、Oさんに残された時間は、あまりありません。

ご家族はOさんの希望を、不安よりも大きいものと考えてくれました。


Oさんが退院して、ご自宅で安心して過ごすことが出来るような態勢作りが始まりました。

医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、訪問看護師に集まっていただき、ご家族を交えての打ち合わせです。

点滴は、ご自宅で管理がしやすいように中心静脈リザーバーを皮膚の下に埋め込み、お風呂にも入れるようにしました。
また、点滴のスピードが一定になるように、輸液ポンプをレンタルしてもらうようにしました。

しばらくは、訪問看護師がご自宅を伺って、体調のチェック、点滴のチェックをすることになりました。


「ご自宅へ帰れますよ。」

と、お話したときのOさんのうれしそうな顔は、忘れられません。


そうして、Oさんは、寝台車で退院されました。


退院されて、数日たったある日。

Oさんの痛みとだるさが強くなってきて、ご自宅で過ごすのが大変そうだ、と、訪問看護師から報告がありました。


もう一度、入院しないといけないかな?


看護師と一緒に、往診に行きました。


Oさんは、ご自宅のリビングの一番いい場所にベッドを置いて、横になっておられました。


「Oさん、わかりますか?」
とたずねると、
しっかりと返事はされますが、つらいのか、「あーっ」と声を上げられます。


ご家族も、あまり眠れないようで、疲れた顔をされています。


Oさんの声に、心配で休むことが出来ないのでしょう。

「どうしましょう。ご自宅でよくがんばられたと思いますし、入院しましょうか?」
とたずねると、

意外なことに、

「今晩一晩は、家で過ごしたいと思います。

もし、夜の間に調子が悪くなったら、救急車で病院に行ってもいいですか?」

とのお答えが返ってきました。


ずいぶん、疲れておられるだろうに。


そう思いながらも、ご家族のOさんを思うこころがとてもうれしく、

「心配なときはいつでも連絡をくださいね。」

と言って、帰ってきました。


帰りの車の中で、看護師さんから聞きました。

「『この人は、人が良くてね。』って、奥さんが言われててね。
困っている人を見ると、ほっておけない人だったんだって。」


だからこそ、ご家族も、Oさんに、できるだけのことをされているのでしょう。

そんなご家族を持ったOさんは、とても幸せですが、すべて、Oさんがしてきたことが返ってきているんだろうな。

そう、思いました。


そして、その夜をご自宅で過ごされ、翌日早朝、Oさんは救急車で病院に来られました。

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by fkymhts | 2006-04-21 16:32 | 医者と患者さん