お腹に水が貯まって苦しいと、強く訴えられている患者さんの治療をすることになりました。
おしっこを出す利尿剤を使っても、お腹の水(腹水)は減りません。
お腹に針をさして、腹水を1.5リットルほど抜いても、2日たつと元通りになってしまいます。
腹水を持続的に減らす方法として、
腹水静脈シャントがあります。
お腹の中に管を入れて、その管の反対側の端を鎖骨下静脈(鎖骨の下にある静脈)に入れて、腹水を静脈に直接流れ込むようにする手術です。
手術の説明をしているときに、ご家族からご質問がありました。
「この手術は、しないといけませんか?」
「しないといけない手術ではありません。
手術にはデメリットももちろんありますので、ご本人が希望されない手術はできません。
ただ、腹水を減らすためには、ほかの治療が効果がなかったので、この手術が有効だと思います。」
患者さんの治療をする上で、医療者側が患者さんに強要することは、原則的にはあってはならないと思います。
「100%安全な手術というのはありませんし、それだけに手術によってかえって状態が悪く なることも考えないといけません。
しないといけない手術はありませんが、手術のメリットとデメリットをご説明しますので、手術を 受けられるかどうかはそれをお聞きになってから決めてください。
決められる上で、ご不明な点、さらに情報がほしいことについては、ご説明をしますので。」
医療者が患者さんのことを一方的に考えて治療を行っていた パターナリズム から、
患者さんを
empowerして、治療方針を自身で決定してもらい、治療に参加してもらうinformed consent へ。
医療を取り巻く環境が変わってきています。
患者さん不在と言われていた医療 から 患者さん中心の医療 へ、
患者さん、ご家族の方の意識も変わっていくでしょう。